100回は、来なきゃ良かったって思っていい

団 こと葉

毎年書いてるわけじゃないけど、今日は講師をしている舞台芸術学院の入学式で、挨拶で言ったことをまだ覚えているので、ここに書き残します。

学生だけじゃなく、大きなチャレンジをこの春始める人も多いかもしれない。

だから、この文字を目にした誰かの背中を、そっとこの言葉が押してくれることがありますように。

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私は15という数字には思い入れがあって、なぜならわたしも舞芸の卒業生なのですが、当時は演劇科とミュージカル科に分かれていて、そのミュージカル科の15期生でした。みんなと同じように入学式にここに座って、先輩の大声にひいたことを覚えています。

わたしからみんなに贈りたいなと思っている言葉は、「100回は、この学校に来なきゃよかったと思っていい」です。

私はこの学校を卒業したあと劇団四季に12年いたんですが、怪我をきっかけに俳優としては四季を離れ、単身ニューヨークに渡るという決断をしました。

その時、「100回は、ニューヨークになんか来なきゃ良かったと思ってもいい」と自分に許可を与えて、海外生活を始めました。

「コンフォートゾーン」という言葉があって、直訳すると「快適な空間」という意味です。これは不安やストレス無く、自分が落ち着いて自分らしくいられる場所、枠組み、決断の範囲などを指しますが、自分のコンフォートゾーンを超えて新しい事に挑戦するというのは、とても勇気のある素晴らしいことで、同時にとても大きなストレスでもあります。

この学校に進学するということは、多くの人にとってコンフォートゾーンから一歩踏み出る決断だったと思います。

この学校は大変です。この先たくさんのカルチャーショックや、苦手なこと、大変なこと、苦しいことが待っています。同期との距離も近いので、ぶつかって大嫌いになったり、逆に大好きになって卒業したらこの仲間なしでどうやって生きていけばいいんだーなんて思ったり、忙しいです。

そんな中壁にぶち当たった時は、「自分で決めたんだから!」「◯◯しないと!」「これじゃダメだ!」と自分で自分を追い詰めず、少し自分に優しくなって、「まぁでも、100回くらいはやめとけばよかったって思ってもいいって、入学式で誰か言ってたな」と思い返しながら、もうちょっと頑張ってみてください。

ちなみに私は、結局「ニューヨークになんか来なきゃよかった!」と思ったことは、一度もありませんでした。

それでもやっぱり、あの日、100回は、来なきゃ良かったって思っていい」を自分に許してスタートを切れたことが、私の背中を押してくれたと思っています。